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2019年05月04日

「民俗の宝庫」水窪を訪ねて⑥―「猫の恩返し」

 ある所に位のあまり高くない僧が一人で住んでいて一匹の猫を大変可愛がって飼っていた。しかし、だんだん僧は貧乏になって、可愛い猫さえ飼う事が出来なくなったので、猫に向って「お前もずいぶん長く大事にして飼ってやったけれども、もう今は飼う事も出来なくなった。今になってお前を手離すのも辛いけれど、どうも仕方がないから、どこへでも好きな所へ行って幸福に暮らしてくれ」と言った。そうすると、猫はしばらく悲しそうにしていたが「それでは私も無理にいても仕方がないからどこかへ行きますが、一つ御恩返しをしたいと思います。もう少しすると、今病気で寝ている庄屋さんの所のおばあさんが死にます。そうすると、私はその葬式の日にかしゃになって、そのおばあさんをまき上げ、誰が祈っても、戻しませんが、あなたが祈ればすぐ降ろしますから」と言って、それきり姿を消してしまった。数ヶ月すると、果たしてそのおばあさんは死に、葬式の日になると俄に黒雲が出て激しい雨が降り出した。そして、そのおばあさんの死体は、するすると空へ上がって行った。さあ大変と大騒ぎになり、色々位の高い僧が幾人もで祈ったけれども少しも下りて来そうな様子がなかった。致し方なく、位は高くなくてもと言って、例の僧が祈ると、不思議や、死体はするすると下りて来て元通りに棺の中へ納まった。それからその僧の評判は一時に高まり、大いに出世したという。(「静岡県伝説昔話集」484より)

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ノガマ 死者に猫が近付くと魔がさすと言って、猫よけに枕許に刀剣や箒を置いたりするのは、この火車の伝説から来た風習で全国的のものです。

 「ノガマ」の風習について、たまたま墓参に来ていた女性に聞いてみました。「鎌を立てるのは昔から?」「そうね。昔からの風習で、前には必ずと言っていいほど鎌を立てたんだけど、最近はしなくなりましたね」「理由は?」「理由は知らないけど・・・」。

ノガマ 調べてみると、かつて土葬が普通だった頃の風習として、埋葬した墓の上によく鎌を立てる「ノガマ」と呼ばれる習俗が徳島県に伝承されています。葬式の穴掘りに使った鎌や鋤は、7日間は墓に置き、それから持って帰らなければ「ノガマ」となるとも言われています。

 墓の上に鎌を立てたり、吊るしたりすると、魔除け、野獣除けになるという信仰は近畿地方以東の地方にも広がっているのだそうです。お隣の奥三河では、「猫が死人を跳び越えると生き返る」と死者の上に鎌を置くと言います。

 水窪には、他の地域ではすでに失われた、古くからの習俗が伝えられ守られています。「ノガマ」は、埋葬してしばらくは墓の上に置かれていますが、その後は山野を飛んでいるとのこと。

ノガマ 愛媛には「ノガマ」という妖怪の言い伝えがあります。草を刈る鎌を大切に使わず、野原に置きっぱなしにすると「ノガマ」という妖怪になって、そこを通る人を斬りつけてしまうと言います。徳島では、葬式の穴掘りに使った鎌や鋤は、7日間は墓に置き、それから持って帰らなければ「ノガマ」となるとも言われています。

 山仕事をしていて転び、切り傷などができるとノガマに切られたと言われます。また、痛みも出血もほとんどない深い傷が、原因も思い浮かばぬのにいつの間にかできるという古くから知られる怪異、当地では「カマイタチ」と呼ぶ現象を「ノガマ」と呼ぶ地域があるそうです。

 それにしても、文化の交差点・水窪には興味深いことがいっぱい。古く懐かしい日本が、ここには残されています。

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