2019年03月27日
阿多古川沿いの春の自然⑦―ふるさとものがたり天竜「阿多古紙」
これは紙の原料となる“楮(こうぞ)”や“三又(みつまた)”を煮たかまどの跡である。
むかしはこの地区の農家の山や畑には、たくさんの楮や三又が植えられていた。
そして冬になるとそれを切り取り、一メートルくらいに切りそろえて、大釜に入れてゆで、皮をむいて乾燥させてから、その皮を売る。それは農家の副業として、この地区で大いに流行ったものである。
一方、製紙を営む家もたくさんあり、特に芦窪や長沢部落では盛んであった。
それらの家々では、乾燥させた皮を買い集め、『阿多古紙』という独特の和紙を製造して、障子紙やからかさ紙として、市場へ送り出していた。
このいわゆる家内産業は、江戸時代に始まって明治には全盛をなし、昭和三十年ころまで続いたという。
しかし時代の変化と共に、その後はすっかり忘れ去られていたが、なつかしい手すきの和紙のぬくもりは、やはりいつか日の目を見るものである。最近、その復活が叫ばれて、製紙工程が次代へ伝えられようとしている。
(阿多古紙製紙工程)
1. 原料切り 冬に、原料の三又、楮を刈り取る。
2. 蒸す 大釜に原料を入れ、こしきという大桶を、釜にかぶせて蒸す。
3. 皮むき 蒸し上がった原料の、皮をむく。
4. 乾燥 はざに皮をかけて、天日で乾燥。
5. もどし 寒中に、沢の水につけてもどす。
6. 皮むき 皮をこする。
7. 乾燥
8. もどし
9. 煮る 楮は、ソーダか灰で、三又は苛性ソーダを入れて煮る。
10.さらし さらし場(小川)で、清流にさらして、不純物をとり除く。
11.たたき 桜の六尺板に原料を並べたたきつぶす。
12.紙すき たたきつぶした原料を、ふねと呼ばれる入れ物に入れ、水を混ぜる。
とろろを入れて、さらに混ぜ、ねばりをつける。
13.乾燥 竹で編んだ“す”を使い、一枚一枚すいていく。
すき上がったものを、三十センチメートル位の厚さまで積み重ね、その上に板を置いて、おもしをして水を切る。翌日、一枚づつはがして天日で乾燥。
14.阿多古紙完成
ふるさとものがたり天竜・第2章上阿多古地区」より)
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