2019年02月27日
佐久間・大滝を歩く⑦―さくま昔ばなし「彌八山と左伝次山」
むかし、大滝という所に、二人の兄弟がいました。兄の名前を彌八、弟を左伝次と言いました。兄は、野良に出て畑を耕すにも、いっぷくしてばかりいるので何日も何日もかかりました。雨降りで野良仕事ができない時には、家でわらじを編むのが常でしたが、わらをしっかりたたいてないので、でき上がったわらじは、すぐに切れたりして長く持たせることができません。仕事がうまくいかないと、すぐにかっとなって、どこかに遊びに出かけてしまいました。
一方、弟の左伝次は、兄とちがってそれはそれは働き者でした。どんなにえらい仕事でも骨身をおしまず、せっせと働くので、兄の耕した畑と弟の畑とはひと目で分かりました。
ある日のこと、兄は紅葉の美しさに見とれながら、
「どうだ左伝次、あした山芋でも掘りに行こうか。」
と、弟をさそいました。
二人は、早起きをして山芋のありそうな山に登り、夢中になって掘りました。その掘り方も、気短な兄は、最後まで掘らないので、途中でボキンボキンと折れてしまいます。それに比べて、弟は根の先まで、ていねいに掘ったので、芋のおいしい部分までとることができました。
家に帰ると、二人は干鮎をだしにして、いもじるを作りました。それは舌づつみを打つほどおいしいものでした。満腹になってしまった二人は、部屋に寝そべってしまいました。そして、そのおなかをさすりながら弟は、
「彌八兄いよ。おれたちは、いつも野良仕事で夜遅くまで働いているが、これというまとまった銭も入らんなあ。どうだ、炭でも焼いて稼いでみちゃあ。そいで、すみがまができるまで、ソバでも作ったらどうかいの。」
と、兄に相談をもちかけました。
「そうだ。そりゃあいいことだ。ソバを作るにゃあ、あのくろうち山がいいぞう。近くにゃあ、小沢山があって、不便はせんぞ。」
仕事嫌いの兄でしたが、儲け仕事と聞いてすぐに承知しました。
翌朝、二人は道具や食料をしょって小沢山に登りました。そして、まず最初の仕事は、自分たちの住む山小屋作りです。雑木を切って、それを藤づるでしばりつけて骨組みを作り、カヤを集めては、その回りを囲ったり、屋根をふいたりしました。
小屋ができ、二人の山での生活が始まりましたが、夕方仕事から帰っても、楽しみと言えば、食べることと寝ることだけでした。兄は、
「くたびれた、くたびれた。」
と言っては、めんぱいっぱいの飯をあっという間に平らげてしまいます。でも、弟は、薪の明かりのもとで、鎌をといだり、のこぎりの目立てをしたりして明日の仕事の手はずを整えていました。
やっと仕事にきりをつけた弟が飯にしようとしたのですが、おかずにするみそは、もう少ししか残っていません。いつもはがまんを重ねてきた弟ですが、この時ばかりは腹にすえかね、
「兄貴だといばって、自分さえたらふく食べればよいのか。」
と、一言兄に文句を言いました。すると、兄は、
「いっしょに食べないお前が悪いのだ。」
と、弟になぐりかかりました。
とうとう、みそがもとで大げんかになってしまいました。止める人もない山の中なので取っ組み合いになってしまい、なぐったり、けったりで、あげくのはて、気の短い兄が、斧を持ち出して力まかせに、弟めがけて斬りつけてしまいました。あわてた弟は、一瞬その場を逃れようとしましたが間に合わず、その場にどっと倒れ込んでしまいました。
「しまった。えらいことをしてしまった。」
兄は、冷たくなった弟のそばで、ぼうぜんとすわりこんで動きません。あたりは、しんと静まり
かえり、いろりの炭火だけがまっ赤に燃えているだけでした。
「取り返しのつかないことをしてしまった。あんなことをしなければよかった。」
後悔しても後のまつり。じっと考えこんでいた彌八は、何を思ったか、大声を張り上げながら、向かいの山へ走って行き、突然持っていた斧で自分の首を斬って果てました。
その後、誰言うとなく、弟の死んだ山を左伝次山、兄の死んだ山を彌八山と呼ぶようになりました。(「さくま昔ばなし」より)
◆ ◆ ◆ ◆
一方、弟の左伝次は、兄とちがってそれはそれは働き者でした。どんなにえらい仕事でも骨身をおしまず、せっせと働くので、兄の耕した畑と弟の畑とはひと目で分かりました。
ある日のこと、兄は紅葉の美しさに見とれながら、
「どうだ左伝次、あした山芋でも掘りに行こうか。」
と、弟をさそいました。
二人は、早起きをして山芋のありそうな山に登り、夢中になって掘りました。その掘り方も、気短な兄は、最後まで掘らないので、途中でボキンボキンと折れてしまいます。それに比べて、弟は根の先まで、ていねいに掘ったので、芋のおいしい部分までとることができました。
家に帰ると、二人は干鮎をだしにして、いもじるを作りました。それは舌づつみを打つほどおいしいものでした。満腹になってしまった二人は、部屋に寝そべってしまいました。そして、そのおなかをさすりながら弟は、
「彌八兄いよ。おれたちは、いつも野良仕事で夜遅くまで働いているが、これというまとまった銭も入らんなあ。どうだ、炭でも焼いて稼いでみちゃあ。そいで、すみがまができるまで、ソバでも作ったらどうかいの。」
と、兄に相談をもちかけました。
「そうだ。そりゃあいいことだ。ソバを作るにゃあ、あのくろうち山がいいぞう。近くにゃあ、小沢山があって、不便はせんぞ。」
仕事嫌いの兄でしたが、儲け仕事と聞いてすぐに承知しました。
翌朝、二人は道具や食料をしょって小沢山に登りました。そして、まず最初の仕事は、自分たちの住む山小屋作りです。雑木を切って、それを藤づるでしばりつけて骨組みを作り、カヤを集めては、その回りを囲ったり、屋根をふいたりしました。
小屋ができ、二人の山での生活が始まりましたが、夕方仕事から帰っても、楽しみと言えば、食べることと寝ることだけでした。兄は、
「くたびれた、くたびれた。」
と言っては、めんぱいっぱいの飯をあっという間に平らげてしまいます。でも、弟は、薪の明かりのもとで、鎌をといだり、のこぎりの目立てをしたりして明日の仕事の手はずを整えていました。
やっと仕事にきりをつけた弟が飯にしようとしたのですが、おかずにするみそは、もう少ししか残っていません。いつもはがまんを重ねてきた弟ですが、この時ばかりは腹にすえかね、
「兄貴だといばって、自分さえたらふく食べればよいのか。」
と、一言兄に文句を言いました。すると、兄は、
「いっしょに食べないお前が悪いのだ。」
と、弟になぐりかかりました。
とうとう、みそがもとで大げんかになってしまいました。止める人もない山の中なので取っ組み合いになってしまい、なぐったり、けったりで、あげくのはて、気の短い兄が、斧を持ち出して力まかせに、弟めがけて斬りつけてしまいました。あわてた弟は、一瞬その場を逃れようとしましたが間に合わず、その場にどっと倒れ込んでしまいました。
「しまった。えらいことをしてしまった。」
兄は、冷たくなった弟のそばで、ぼうぜんとすわりこんで動きません。あたりは、しんと静まり
かえり、いろりの炭火だけがまっ赤に燃えているだけでした。
「取り返しのつかないことをしてしまった。あんなことをしなければよかった。」
後悔しても後のまつり。じっと考えこんでいた彌八は、何を思ったか、大声を張り上げながら、向かいの山へ走って行き、突然持っていた斧で自分の首を斬って果てました。
その後、誰言うとなく、弟の死んだ山を左伝次山、兄の死んだ山を彌八山と呼ぶようになりました。(「さくま昔ばなし」より)
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