龍神伝説の岩水寺を訪ねる⑧―田村麻呂と玉袖

AKG(秋葉観光ガイド)の斉藤さん

2021年07月28日 04:59

 (①からつづく)やがてえぞ征伐の大役を果たして、再び船岡山に着いた田村麻呂は、夕日が美しく映える袖が浦の浜辺に立って、じっと水面に見入っていた。その時どこからともなく近づいて来た一人の女。それはこの世のものとは思われぬほどの美しさであった。女はひざまづいて、言うのだった。
 「どうぞ私を、あなたのおそばにおいて下さい。」
 田村麻呂は女の美しさにひかれて陣屋に連れ帰り、玉袖と名付けて、大変にかわいがった。玉袖も心から田村麻呂につかえ、やがて身ごもった。
「今日より二十一日の間、どうぞこの部屋の中を見ないで下さい。」
 そう言って産屋に入った。
 けれども玉袖見たさ、我が子見たさの田村麻呂は数日後、とうとう待ち切れなくなって部屋をのぞいてしまった。
 するとどうであろう。中に玉袖の姿はなく、赤い大蛇がとぐろをまいて、生まれたばかりの赤ん坊の体をぺろぺろとなめていた。
「これは何としたこと。」
 思わず刀をつかんでとびかかろうとすると田村麻呂より一瞬早く、大蛇はすーっと美しい玉袖の姿になっていった。
「私はこの袖が浦の主でございます。あなたの武勇に心ひかれ、おそば近くおつかえいたしました。かかる恥ずかしい姿をお目にかけ、我が命もこれまでにございます。この上は、末永くこの子の守り神となりましょう。どうぞこの子をお育て下さいまし。」
 はらはらと涙をこぼしてそういう玉袖を、田村麻呂は言葉もばく、見つめていた。
 やがてキラキラとあやしく光る二つの玉を、手のひらに乗せた玉袖は、
「これは私の命にございます。一つは子育ての玉、もう一つは潮干の玉、どちらもあなたがお困りの時、きっとお役に立ちましょう。」
 そう言い残すと袖が浦の波の中に、姿を消してしまった。
 海は前にも増して荒れるようになった。
 田村麻呂は子どもを俊光と名づけた。母、玉袖の残していった子育ての玉をなめて、俊光は大きくなった。
 一方、玉袖が身を投げた袖が浦は、怒り狂ったように荒れて、村人も旅人も大変に困った。
「そうだ。あの潮干の玉を・・・・・・。」
 田村麻呂は潮干の玉を、海深く投げこんだ。
 すると不思議、それまで荒れくるっていた袖が浦の波は、みるみるうちにおだやかになり、あふれるほどの海水は、またたく間に引き潮になってかれていった。後に残ったのは、広々とした砂丘であった。(浜名、磐田郡西部、遠州平野)
 しかしその中央に、ものうげに南下する一つの川があった。天竜川である。
 田村麻呂は玉袖の霊をなぐさめ、減水を祈って、鹿島の地に椎が脇神社を、岩水寺には薬師堂を建立した。
 そして間もなく、京の都へ帰って行った。=③へつづく=(「ふるさとものがたり天竜・第1章二俣地区」「袖が浦物語」より)

     ◆       ◆       ◆       ◆

 浜北区の「赤佐(あかさ)」の地名は「赤蛇」に由来しているとも聞いています。「遠州はまきた飛竜まつり」に登場する竜が赤いのも、この「赤蛇」の伝説に基づいてのこと。このイベント開始時の企画に関わっていましたので、よく覚えています。






 岩水寺の信徒会館が「赤龍閣」と名付けられているのも、「赤蛇」が由来なんですね。

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