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2017年12月15日

犬の伝説いろいろ③―ふるさとものがたり天竜「悉平太郎の物語」より(上)

見付天神裸祭り 大きな山門をくぐった弁存(べんぞん)は、庭にすわっている子牛ほどもある犬を見て驚いた。大きな目をらんらんと光らせて、耳をピンと立てたその姿は、まことに勇ましく、
 (これぞさがし求めた、悉平太郎にちがいない。)
 と、思えたのである。

 弁存はお寺の和尚に、
 「わしは遠い見付の町から、悉平太郎という人をさがして、この信州までまいった弁存と申すもの。しかしどうやら人ではなく、この犬のようです。」
 「それはまた、何として・・・・・・。」
 「はい、実は・・・・・・。」
 弁存は、一部始終を語った。旅の途中の見付の町で、すておけぬ話にでっくわし、はるばるこの信州まで訪れたことを・・・・・・。
 「わしは何としても真を見きわめて、見付の町を救わねばならんのじゃ。人身御供にされるむすめを、見殺しにはできんのじゃ。」

 「それで・・・。」
 おしょうは、たたみかけるように聞いた。
 「実は天神社の社で、『悉平太郎に知らすなよ。』という悪魔の声を聞きました。娘をほしがる悪魔は、きっと悉平太郎をおそれているにちがいないのだ。どうぞ悉平太郎を、このわたしにしばらくお借(貸)し下され。」
 和尚は、ふっとため息をついて、そばにひかえた悉平太郎を見やった。悉平太郎はことのしだいがわかったのか、勢いづいて、大きく一声ほえると立ち上がった。
 「弁存とやら、どうやらこの太郎は、喜んでいるようす。どうぞお連れ下さい。悉平太郎は、この駒が根山の狼の血を受け継いだ、勇かんな犬じゃ。きっとお役に立ちますぞ。」
 力強く言う和尚に、弁存は、ただただ頭をさげるのだった。

 和尚は、悉平太郎の頭をなでて言った。
 「どんな悪魔と戦うことになっても、決しておそれるではない。わしもこの駒が根から、お前の無事を祈っているぞよ。」
 悉平太郎は和尚をじっと見上げていたが、さも『分かった。』というふうに、また一声高くほえたのである。

 「さて、そうと話がきまれば、一刻も早く、もどらねばならん。はや今日は九日の夕刻、それでは悉平太郎を、お借りいたす。」

 弁存と悉平太郎は、信州駒が根をあとにした。
 山を越え、谷を越え、走りに走った。

 そしていよいよ八月十一日、見付天神社の祭りの日がやってきた。 (「ふるさとものがたり天竜・第2章上阿多古地区」より一部引用)

   ◆       ◆       ◆       ◆

 霊犬「悉平太郎」の話は、信州と遠州とを結ぶ有名な伝説。遠州地方の各所に、「悉平太郎」の足跡とも言える話が残されています。それにしても、文化の共有とは興味深いものです。



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Posted by AKG(秋葉観光ガイド)の斉藤さん at 05:14│Comments(0)民話・言い伝え
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