2019年10月09日
「バスで行く天竜区のいいとこ」佐久間編⑰―語り部「やまんばの会」による昔話
ホウジ峠に飛騨の国から1人のそまさ(木こり)が出稼ぎにやってきて、いつも木を切ってたんだって。峠の近くに野田っていう集落があるんだけど、そまさは野田の人たちと仲良くなってねえ。子どもらと相撲をとったり、祭りの日には村の衆とお酒を飲んだりしてただって。
とっても働き者のそまさでね。稼いだお金を、いつも腰につけて仕事をしてただって。毎日休みなく、朝早くから日が暮れるまで、そまさが木を切る音が「カーン、カーン」って集落に響いてただって。
そうしたら、小屋の中が荒らされて、そまさがバッタリ倒れて息絶えておったんだって。こりゃきっと、物取りのせいに違いない。そまさがいつも腰に付けてた袋を探してみたけど、やっぱりなくてねえ。「木曽におる、そまさの家族の衆にこれを知らせてやらにゃいかん」って言って、野田の若い衆何人かで木曽に向かったんだって。
4日ぐらいかけて、やっとこ木曽までたどり着いた。人に尋ねてそまさの家を見つけたら、子どもが大勢おってね。おっかさんに知らせると「正月には帰ってくると言ってたから、それだけを楽しみに頑張っておっただに」と泣き崩れただって。
あまりの痛ましさに、野田の衆もその場におれんくなって、早々に帰ったんだけどもね。「良いそまさだったね」とみんなで時々話をしていたんだけども、それからしばらくしたら誰が建てたんだか、そまさの小屋のところにお地蔵様が建った。いつも青しばが供えてあってね。誰が祭ったのかは分からないんだけどね。
ここに来る前に立ち寄った「龍王権現」や「やまんば」の話など、たっぷりと聞かせていただきました。