2017年07月15日
楽しかったミニ同窓会②―イラストレーター斉藤真君

東日本大震災が発生した2011年、脳梗塞で利き手の右手が不自由になった浜松市北区引佐町のイラストレーター斉藤真さん(64)は左手での再起を決意し、愛らしい犬の絵を色鉛筆で描けるまでになった。モデルは東京電力福島第一原発事故で浜松に引き取られたシバイヌ「ペコ」。絵は元飼い主の夫妻へと届けられ、愛犬と離れて仮設住宅で暮らす夫妻の心を癒やしている。

斉藤さんは家業の酒販店を営みながら、広告のデザインや雑誌の挿絵などを手掛けていた。店を畳み、イラスト1本に絞ろうと考えていた11年秋、以前から感じていた右半身のしびれがひどくなり、真っすぐ歩けなくなった。病院に行くと脳梗塞と診断され、すぐに入院が決まった。
一命は取り留めたが、後遺症は避けられなかった。「右手がどれくらい元通りに動くかは分からない」。医師から告げられた。試しに左手で色鉛筆を握ってみた。右手の3倍以上の時間をかけても、納得できる絵は生まれない。よれた線しか引けないたどたどしさに最初は落胆した。それでも、時間を見つけては習作を重ねた。

左手での筆遣いにも少し慣れ始めた13年、友人の酒販店主加藤国昭さん(62)=浜松市西区=が震災で飼い主と離れ離れになったペコを引き取ったことを知った。元飼い主の牧子篤さん(74)、良子さん(77)夫妻は、福島第一原発事故で、故郷の福島県葛尾村から避難。近くの同県三春町の仮設住宅に移り、愛犬と離れて暮らさざるを得なかった。「少しでも力になれれば」。斉藤さんはペコの絵を描き、加藤さんに託した。
「写真かと思うくらいにそっくり。利き手で描いていないなんて信じられない」。届いた絵を見て、牧子さん夫妻はペコの懐かしい表情を見ることができた気がした。絵は今でも仮設住宅に飾り、加藤さんに大切に育てられている証しにもなっている。「ペコは幸せだね」。絵を見るたびに、そう思う。
斉藤さんは今年5月、ペコと一緒に牧子さん夫妻を訪ねた加藤さんに、夫妻の似顔絵を渡してもらった。「最初は応援するつもりで絵を贈ったが、今では大変な状況でも自分の病状を気遣ってくれる夫婦に励まされている」。絵と犬が結んだ縁を大事に、これからも2人の心が和む絵を届けていきたいと思っている。(2015年9月10日付「中日新聞」より)
Posted by AKG(秋葉観光ガイド)の斉藤さん at 06:28│Comments(0)
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