2019年09月22日
丸い石を供える信仰⑥―「巾着石」

そして何日もかかって、やっと金比羅さんへ到着した。
「ああ、あ、やれやれ。ここが金比羅さんかいな。さあ、ようく、拝まにゃあ。」
お婆さんたちは、一生懸命にお祈りをした。
そのうち、
「せっかく、こんな遠い所まで来たんじゃ。何かよい土産は、ないもんかなあ。」
と、あたりを、きょろきょろしていたおうた婆さんは、いいことを思いついた。
「そうじゃ。金比羅さんの境内にころがっている、この小石を、一つだけ失敬していこう。」
おうた婆さんは、小石をそっと拾って、巾着袋に入れて、持ち帰った。
やがて、無事家へ帰ったおうた婆さんは、その小石を巾着袋から取り出して、神棚にあげ、毎日お祈りするようになった。
しばらくしてからのことである。
「あれ、この石、何だか大きくなってきたようだが・・・・・・。」
おうた婆さんは、不思議な気持ちで小石を見た。
そのとおり、それから毎日、小石は少しずつ大きくなっていく。
そして、とうとう神棚にまつっておくことができないほどに、大きくなった。
「仕方ない。悪いけんど、外へ出すことにしようかのう。」
おうた婆さんは、そう言いながら、石を庭先へ出してしまった。
それからまた数日が過ぎたある夜、おうた婆さんは、きれいなお姫さまの夢を見た。
お姫さまは、
「私は、お前の巾着袋に入れられて、はるばる四国の金比羅権現からやって来た、石の精じゃ。いくら石じゃとて、雨ざらし、日ざらしはつらい。夜の寒さも身にしみる。」
と、うらめしそうに言いながら、消えていった。
おうた婆さんはびっくりして、早速祠を作って、石をおまつりした。
それから後、みんなはだれ言うことなく、この石を『巾着石』と呼ぶようになった。
巾着石は、今でもしっかりと祠の中におさめられて、万病の神さまとされている。(「ふるさとものがたり天竜・第3章光明地区」より)
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巾着石は立てて置かれているのですが、これも北遠で見てきた「丸石信仰」の一つと言えるのではないでしょうか?