2019年01月21日

虫生の冷鉱泉を訪ねる③―虫生の湯

 昔、豊岡の山の虫生(むしゅう)の村に、皮膚病に悩む男がいました。ある日、紀州の熊野権現さんにお願いするといいと聞いた男は、さっそく熊野へ参拝。近くの温泉で療養すると、本当に病は治ってしまいました。

 男は大喜びしながら考えました。わしと同じ病気で悩んでいる村人は沢山いる、この湯が村に出たならなぁ、と。そして、熊野さんに一心に祈りました。するとある夜、夢の中に権現様が現れて、「汝の家の南の山に煙が立ち登る。その下の泉を掘ってみよ」と告げました。

 家に帰ると、南の山にたしかに紫色の煙が立っています。行ってみると、藪の中に冷泉がわいているではありませんか。この水を湯にわかして浴びた村人たちも、たちまち病気が治ってしまいました。評判は、村の外にも伝わり、各地から人々が集まって浴舎もできました。こうして虫生の温泉は、江戸時代の終わりまで湯治客で賑わったのです。(「中遠昔ばなし・第4話」より)

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虫生・落合橋付近の湧出口 写真は、沢の底の岩をボーリングしたような穴。近くにはあるのですが、伝説の冷泉とは別のようです。

 冷泉とは言え、地下水が湧く仕組みは湧水と同じ。地下水に鉱物質が溶け出したものが鉱泉ですが、火山性ではありませんので、水温が25℃より低いままなのが冷泉です。

 「虫生の湯」の成分は天然の硫黄分。俗に言う「硫黄臭」とは、黄鉄鉱や黄銅鉱などの硫化鉱物から溶け出した硫化水素の匂いです。

 写真の穴の周りにも、白っぽい湯の花状のものが付着しています。

「新版畧圖 三國七郡之内道中案内」 大正3年(1914)発行の「新版畧圖 三國七郡之内道中案内」を見ても、磐田市大平地区のすぐ北側には、製鉄の「踏鞴(たたら)」から派生する地名と考えられる天竜区只来(ただらい)が。

 磐田に湧く鉱泉は、北遠から続く鉱脈に由来するものと思われます。



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