春野協働センター前、国道362号脇の少し高いところにナギの木があります。
ナギの木は春野に自生したものではなく、どこかからもたらされた苗木を植えたもの。すぐ上に鎮座する熊野神社の神木とされてもいますので、万治2年(1659)創建と伝えられる高瀬の熊野神社ゆかりの木であると言えるのかも知れません。
では、この熊野神社が、何故ここに勧進されたのか?実は、春野の小字名を調べているうちに、あることに気が付きました。それは、「ナギ沢」「赤ナギ」「ナギノシリ」「藤ナギ」「ナギ平」など、「ナギ」の付く地名です。
今は忘れられているかも知れないこれらの小字の名は、かつてこの地では多くの「ナギ=地滑り」が起きたことを示すもの。高瀬のナギの木の近くにも、「大ナギ」の名が残っています。
「ほれ、あれ見てみ。あの窪んだところが崩れたところで、その下の膨らんだところが、地滑りが止まり土砂が堆積したとこだ」。地元住民の1人が、指を差して教えてくれました。「あのナギの木があるとこも、昔は『天王沢』と言って、水が流れる場所だった」とのこと。
もしかしたら、その「ナギ=地滑り」が起きないことを願い、勧進したのが熊野神社であり、そこに植えられたのが「高瀬のナギ」であったのかも知れません。この推測が正しいとすれば、樹齢は約450年。
「ナギ=凪」として海岸地域に植えられたナギの木が、「ナギ=地滑り」として山間地域に植えられた事例は、他にあるのでしょうか?これは推測の域を出ませんが、そんなことを考えさせる高瀬のナギの木です。