北遠の庚申信仰①―腹ん中にやぁの、三尸という三匹の虫が居って
人間様の腹ん中にやぁの、三尸(さんし)という三匹の虫が居って、その人間が悪いことぉすると逐一(ちくいち・一つ一つ)覚えて居てだ、お庚申の夜に眠ってると、その隙(すき)にだよ、腹ん中から出て、天へ上ってっての神様に告げ口よぉする。そうするとそれよぉ聞いた天の神様が怒って、その人間に命よぉ奪っちゃう、そんだで三匹の虫が腹から抜け出ん様にと、お庚申さまの夜は、ずうっと寝ずに居にやぁならんでっていう様な話よぉしてたもんだよ。
それよぉ聞いた子供ら、わしらぁ子供心に、これやぁ恐いことがあるもんだって思ったゞいの。お庚申の夜に寝ずに居るっていうこたぁ出来んで、子供心に、これやぁ困ったこんだなぁって真剣なって思ったもんだいの。
まぁ、年寄りや大人の衆がの、悪さばっかする子供らに、明日から悪さぁしちゃぁいかんっていう戒め(いましめ)に言ってたゞいの。こんな話やぁ、とても今の子供らにやぁ通じるもんじやぁないがの。(木下恒雄著「山の人生 川の人生」より)
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北遠の路傍には、庚申の本尊・青面金剛(しょうめんこんごう)童子の庚申塔が立っているのを見かけます。
写真は、浜松市天竜区小川地区の千草で見かけたもの。風化が少なく、建立当時の姿がよく残されています。
童子は目を伏せて、六臂のうちの二臂は胸の前で合掌。残りの四臂には、それぞれ弓、矢、羂索(綱)と法輪を持ち、両肩の上には瑞雲を伴う日輪・月輪が陽刻で施されています。
これほどきれいな状態のまま保存されているからこそ分かる疑問ですが、上に掲げて弓と矢を持つ二臂の手が捩れているのが気になります。左右の手を上に挙げてみていただければ分かる通り、親指は内側に来るはずなのですが、この石像では外側。
木下恒雄氏によって掘り起こされた「山の人生 川の人生」の庚申に関する生の記述は、明治40年(1907)生の和知野信一郎氏からの貴重な聞き書きです。
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