むかし、阿蔵(あくら)村の南山のふもとの道で、人や馬の事故が大変に多い時があった。
主人に手綱を引かれて勢いよく歩いて来た馬が、急にころんでしまったり、通行人が道下に足をふみはずしたり・・・・・・。
二俣村の由太郎さんも、そんな一人であった。
ある日、そこを通りかかった由太郎さんは、道ぎわの浅田にころがりこんで大怪我をし、それがもとで起き上がることができなくなった。
由太郎さんは、痛む体を布団に横たえて、考えるのだった。
「あんな変てつもないところで、なんでころんだんじゃろう。」
さてその数日後、由太郎さんの知り合いのおばあさんの夢の中に、観音さまが現れて、
「今まで、南山のふもとの道の、土深くに眠っていたが、この上は一日も早く、掘り起こしておくれ。近隣の守り仏となろう・・・・・・。」
と、言うのであった。
観音さまのことを、おばあさんから聞いた村人たちは、早速、南山のふもとの道を掘り起こしにかかった。
そして、
「あっ、観音さまじゃ。おばあさんの夢の中に現れたのは、この観音さまにちがいない。」
村人たちは祠をつくり、盛大なおまつりをした。
すると由太郎さんの大怪我も間もなく全快して、道行く人々の事故も、それからはぱったりとなくなった。
この『南山馬頭観音』のことも、人々は、交通安全、商売繁盛、家内安全に霊験あらたかな観音さま、と伝えて、今も南山中腹の景勝の地におまつりをしている。(「ふるさとものがたり天竜」より)
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「南山馬頭観音」は南山の中腹と言うほどの場所ではなく、天浜線の南の道路より1段高くなっている場所に祀られています。道路拡幅工事などにより移座され、現在の地になったようです。