クリスマスの街に星が降る
『ジングルベル』の曲や呼び込みの声…クリスマスが近い冬の夜、優ちゃんは、お母さんと一緒に、華やいだ街へと買い物に出かけました。「プレゼントやチキンの箱を抱えた親子がたくさん歩いているわ。若いカップルも手をつないで楽しそう。ぶつからないようにしなくてはね」。優ちゃんは生まれたときから目が不自由でしたので、お母さんは街の様子をできるだけ分かりやすく伝えようとしました。「ここは、デパートの前の広場。真ん中に大きなクリスマスツリーが立っていてね、赤や黄色や青などの電球が何百も何千もキラキラ光っているのよ。ツリーの下には、鼻が光ったトナカイさんもいるわ」。「ふーん。電球がキラキラね」と、優ちゃんはお母さんの言葉を繰り返しました。「星みたい?」と、聞いてみました。「そうね。優子は星って分かるの?」「ううん。一度でいいから見てみたいけど、それは無理だしね。きっと、きれいなんだろうなと思って」。
人波を避けながらゆっくり歩いていくと、ガード下で声をかけられました。「募金に協力をお願いしまーす」と、少年は言いました。「おい、よせよ。目が見えない子だぜ」と、別の少年が優ちゃんの白い杖に気づいて止めました。「かまわないさ。あのう、もし幸せだったら、その幸せを少しだけ分けてあげてください」と、先の少年はためらうことなく続けました。優ちゃんはニッコリ笑ってお母さんの手を引き「ねえ、お母さん。私、今とても幸せな気分だから、その幸せを分けてあげて。お願い」と、頼みました。お母さんは、バッグからお金を取り出して、募金箱に入れました。少年は、優ちゃんの手を取り「ありがとうございました」と言いながら、クリスマスカードを一枚渡しました。「わっ、冷たい」優ちゃんは思わず手を引っ込めました。でも、少年はもう一度優ちゃんの手を握り「きれいなカードだから、持って帰って」と、言いました。「何か描いてありますか?」「うん。真ん中に雪をかぶったモミの木があって、星が輝く夜空をサンタがソリに乗って飛んでいるんだ。星がキラキラ光ってる」と、少年は言いました。「やっぱり、星かあ。それって、何みたい?」と、聞いてみました。「星を知らないの?」「うん。聞いたことはあるんだけど。でも、見てみたいの」と、陽ちゃんはつぶやきました。「僕も見せてあげたいけど」と、少年は言いました。「ありがとう。でも、無理よね」と、優ちゃんは言いながら、そこを離れました。
少年は優ちゃんのことが気になりました。「星か。何とかしてあげたいな」と、思いました。優ちゃんもなぜか少年のことが忘れられません。「また、会えるといいな」と、心の中で思いました。
次の日、優ちゃんは「もう一度、あの子に会いたいの。お母さん、お願い。街に連れて行って」と、頼みました。お母さんは嬉しそうに笑ってうなづき、優ちゃんの手を引き、同じ時間に同じガードの下に足早に向かいました。少年は夕べと同じように、募金箱を抱えて、立っていました。優ちゃんに気づいた少年は「待っていたんだ。まさか、本当に会えるなんて」と、声をかけました。優ちゃんにも、夕べの少年だということが、すぐに分かりました。「これを渡したくて」と、少年は優ちゃんに、新しいカードを渡しました。手作りのカードです。夜空には、やはり大きな星が光っている絵が描かれていました。「昨日の話を聞いて、冬に輝くの星の絵をどうしても描いてみたくなって、描いたら渡したくなって、神様にお願いして待っていたんだ。僕からのクリスマスプレゼント!」と、少年は言いました。優ちゃんも、お母さんにお願いして、連れてきてもらったことを話しました。
優ちゃんの指先に、少しへこんだ大きな星の形が触れました。「あっ?」と優ちゃんが、小さな声を上げました。「うん。点字とか分からなかったから、ボールペンで何度も何度もギュギュって星の形を描いたんだ」と、少年は言いました。「あっ、こっちはハートの形?」と優ちゃんが気づきました。
そのとき、空から白いものが舞い降りてきました。雪が優ちゃんの頬や手のひらに触れました。「わっ、冷たい。ねえ、雪?」と、優ちゃんは聞きました。少年は少し考えたあとで「雪だけど、キラキラと光ってフワフワと舞い上がっている。そう、星だよ。これが僕たちの星だよ」と、力強く言いました。「そうなの?これが星なのね?これが私たちの星なのね。私、星が見えたわ。今ね、星がキラキラと光っているのが初めて見えた気がする。幸せ!」と言いました。キラキラ輝く雪が、優ちゃんと少年の握り合った手と髪にやさしくやさしく降りかかりました。
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