「懐山おくない」を観る⑥―「鬼の舞」と「駒の舞」
「カルサン」を穿いた「フツトリ」の先導で、赤、青、黒の三匹の鬼が出て来ました。
赤鬼は鉞、青鬼は大槌、黒鬼は金棒を後手に持っての登場。鬼は山の神を表しているのでしょうか?それぞれの採物を頭上で勇ましく振り回し、その後、後手に持ち替えて1回転。この動作を繰り返した後、お互いに打ち合うのは、仲たがいをしたのでしょう。
「フツトリ」が炎に見立てた布を手にして登場。山に火が点けられては堪りません。鬼たちは、炎を消そうと採物を振るいます。やがて、火が消えたのか、三匹の鬼と「フツトリ」は退場するという筋書きは、火防への願いでしょうか?
「駒の舞」は、先ずは駒の被り物を付けた舞人が一人で舞いました。やがて、振り分け荷物を肩に掛けた「馬喰(ばくろう)」が登場します。
ここで言う「馬喰」とは、遠くから旅をして来た馬買いの商人のようです。「阿弥陀の前の名馬の駒、これはどうた コロコロコロ」と声を掛けますが、馬は答えません。「こちらではオロオロと呼びます」と列座から声が上がり、「阿弥陀の前の名馬の駒、これはどうだ、オロオロオロ」と言い直すと、馬は首を上げて答えます。
「はつぞう山のはつ柴これはどうだ、オロオロオロ」と声を掛けますが、馬は答えません。再び列座から「名馬の駒に柴はくれません。大豆をふくぶくと煮て餅米の糠に合わせてくれています」と声が掛かり、「大豆をふくぶくと煮て餅米の糠に合わせてこれはどうだ、オロオロオロ」と言い直すと、再び馬が答えます。
「角川日本地名大辞典22静岡県」によれば、懐山は「明治24年の戸数63・人口385・厩37」。馬の飼育が盛んな土地柄でした。
丹精込めて育てた馬を、高値で買ってもらいたいとの願いを込めた問答。懐山の農家で育てた馬を手放す時の情景を表した舞のようです。
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